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福岡高等裁判所 平成元年(ネ)832号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における本件反訴を却下する。

控訴費用は控訴人の、当審における反訴訴訟費用は被控訴人の各負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  熊本地方裁判所昭和六二年(ケ)第二一〇号不動産競売事件(以下「本件競売事件」という。)における平成元年一月一一日作成の別紙配当表(以下「本件配当表」という。)のうち、被控訴人への配当額一億四八二一万六二一六円から三二六〇万二九〇三円を減額し、これを控訴人への配当額とする。

3  当審における本件反訴を却下する。

4  本件についての一、二審の訴訟費用及び当審における反訴訴訟費用は被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

1  本件控訴を棄却する。

2  (当審における反訴請求)

控訴人は被控訴人に対し

(一) 金五九四万円及びこれに対する本件反訴判決確定の日から完済まで年五分の割合による金員を

(二) 本件競売事件において供託されている被控訴人への配当額三二六〇万二九〇三円に対する平成元年一月一一日から被控訴人に対する右配当の実施済みに至るまで年五分の割合による金員を

各支払え。

3  当審における訴訟費用は控訴人の負担とする。

4  右の2につき仮執行の宣言

第二  主張

一  本訴請求原因(控訴人)

1  熊本地方裁判所は本件競売事件につき配当期日の平成元年一月一一日本件配当表を作成し、被控訴人への配当額を一億四八二一万六二一六円と記載した。

2  控訴人は、右配当期日に出頭し、本件配当表につき後記8のとおりその変更を主張して配当異議の申出をした。

3  控訴人及び坂口亮一は、坂口亮一が昭和六〇年五月二日株式会社住宅総合センター(以下「住宅総合センター」という。)から借り入れた四二〇〇万円(以下「甲債権」という。)と一億二八〇〇万円(以下「乙債権」という。)のそれぞれを担保するため、後日各人の所有不動産に共同抵当権を順次設定し、その旨の登記をした(以下甲債権を担保する抵当権を「甲抵当権」、乙債権を担保する抵当権を「乙抵当権」という。優先順位は甲、乙の順。なお坂口亮一所有不動産についてはその後第二者名義に所有権移転登記がなされたものであるが、以下も坂口亮一所有不動産という。)

4  被控訴人は、乙債権につき坂口亮一の委託を受けて連帯保証をしていたが、同六二年五月七日住宅総合センターに一億二八〇〇万円を代位弁済し、同年六月一七日同センターの有した乙抵当権につき、移転の附記登記を受けた。

5  熊本地方裁判所天草支部昭和六二年(ケ)第一号不動産競売事件(以下「別件競売事件」という。)で、右控訴人所有不動産が競売に付され、同事件において甲債権に基づき配当加入した住宅総合センターは同支部同年一二月二二日作成の配当表に基づきその一部に当たる三二六〇万二九〇三円の配当を受けた。

6  住宅総合センターは甲抵当権に基づき坂口亮一所有不動産について本件競売を申立て(昭和六二年四月三〇日競売開始決定、同年五月二日差押登記)、同センターは甲債権の残債権について、被控訴人は乙債権の代位弁済によって取得した債権について配当加入し、本件配当表が作成された。

7  したがって、本件配当表において被控訴人への配当分として記載された金額は、控訴人、被控訴人間においては、民法五〇一条但書五号に従って頭数により代位されるべきところ、控訴人の配当を受けるべき金額は別件競売事件で住宅総合センターが配当を受けた右三二六〇万二九〇三円を限度とするので、被控訴人のそれは本件配当表のうち被控訴人への配当額一億四八二一万六二一六円から右三二六〇万二九〇三円を差し引いた金額になるというべきである。

仮にそうでないとしても、甲・乙両債権は本来一個の債権であって、同センターの都合により二口に分割されたものであり、同センターと被控訴人間の密接な関係から被控訴人が右分割の事実を控訴人に主張することは信義則上許されないから、右結論に消長を来さない。

8  よって、控訴人は、本件配当表のうち被控訴人への配当額一億四八二一万六二一六円から三二六〇万二九〇三円を減額し、これを控訴人への配当とするよう求める。

二  本訴請求原因に対する認否(被控訴人)

本訴請求原因1ないし6の事実(ただし、4の代位弁済額は一億四四〇八万四四二四円である。)は認めるが、同7は争う。

三  当審における反訴の請求原因(被控訴人)

1  被控訴人は本件配当表に基づき、配当期日の平成元年一月一一日に一億四八二一万六二一六円の配当を受ける予定であった。

2  しかるに、控訴人は、右期日に被控訴人の右配当金中三二六〇万二九〇三円に対する配当異議の申出を経て本件配当異議の訴えを提起し、原審で敗訴しながら、更に本件控訴に及んだ。

3  しかしながら、以下の事情から明らかなとおり本件訴えの提起及び本件控訴はいずれも違法であり、不当訴訟、不当控訴というべきである。

(一) 控訴人は、右配当異議の申出権を有しないにも拘わらず異議の申出を経て右訴えを提起した。

(二) 控訴人は、右訴え提起時に以下の事実を知っていた。

(1) 被控訴人は甲債権について連帯保証をしていないこと、

(2) 控訴人は乙債権について物上保証をしていたが、乙債権について代位弁済していないこと、

(3) 被控訴人は乙債権について連帯保証をし、住宅総合センターに対し乙債権の元利金一億四四〇八万四四二四円を昭和六二年五月七日代位弁済して控訴人の物上保証に係わる乙抵当権の移転を受けたが、別件競売事件においては剰余なく配当を受けられなかったので、控訴人は被控訴人に対し民法五〇一条但書五号により求償債務を負担していること、

(4) 本件競売事件において、控訴人は登記簿上債権者として表示されていないこと、

(三) そうとすれば、控訴人は、本件配当表に対する配当異議の申出権のないことを知っていたものであり、仮にそうでないとしても、その訴訟代理人弁護士は、これを知っていたか、又は重大な過失により知らなかった。

(四) にも拘わらず、控訴人は、配当異議の申出を経て配当異議の訴えを提起し、一審で敗訴しながら、本件控訴を提起した。

4  被控訴人は、控訴人の右行為により右異議額三二六〇万二九〇三円について前記配当期日での配当を受けられず、以下の損害を被った。

(一) 被控訴人は弁護士鶴丸富男に訴訟委任をし、代理人報酬の支払を約したが、福岡県弁護士会報酬規程一八条所定により算定した一、二審手数料及び成功謝金の合計五九四万円

(二) 配当期日の平成元年一月一一日から右異議額三二六〇万二九〇三円に対する金員の配当実施済みに至るまで民法所定年五分の割合による損害金

5  よって、被控訴人は控訴人に対し、

(一) 右4の(一)の五九四万円及びこれに対する本件反訴判決確定の日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金と

(二) 右4の(二)の配当異議額三二六〇万二九〇三円に対する平成元年一月一一日から右金員の配当実施済みに至るまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金

の各支払を求める。

四  当審における反訴に対する本案前の抗弁(控訴人)

本件反訴は、控訴人の審級の利益を害するから同意しない。よって本件反訴は不適法なものとして却下さるべきである。

五  右本案前の抗弁に対する主張(被控訴人)

本件反訴は、控訴人の配当異議申出権の有無を争点にし、控訴人にそれがないことが明らかであることから、本件訴え及び本件控訴が違法であるとの法律判断を求めるものであり、控訴人の審級の利益を害することはない。

第三  証拠の関係〈省略〉

理由

第一  本訴請求について

一  本訴請求についての控訴人の当事者適格

担保権実行としての不動産競売事件において、配当期日に配当異議の申出をした当該事件における債権者は配当異議の訴えを提起できるが、控訴人は、本件配当表に債権者として記載されていないことを自認しながら、本件事実関係の下では、住宅総合センターの債権を一部弁済したことにより同センターの有する甲抵当権を代位取得したものとして民事執行法八七条一項四号に該当する旨主張して、配当異議の申出を経て本訴請求をしているのに対し、被控訴人は、配当異議の申出のできる債権者は、配当表に記載されている債権者に限られると主張する。

そこで検討するに、形式的にいえば、同法八九条一項は配当異議の申出資格を有する債権者としては配当表に記載されている者に限定しているわけではないし、実質的にいっても、弁済による代位をしながら何らかの事情で配当表に記載されなかった債権者が、配当表に記載された他の債権者の配当額の存在又は内容を争い、それが自己への配当に回されるべきである(したがって、自己が受領資格者である)という実体上の主張をして配当異議の申出をしてくる道を閉ざす必要性は見出せない(この場合別途の訴訟で解決する方法-例えば不当利得返還請求訴訟-があるとしても迂遠である)。たしかに、当該執行手続上債権者として扱われてこなかった債権者が突如として配当異議の申出をし、更に配当異議の訴訟を提起してくることを容認するのは異議を言われた債権者にとっても執行裁判所にとっても如何にも唐突の感じを否めないが、当該債権者が実体上の権利を有していると主張してくるのであれば、相手方がそれを受けて立つべきは止むを得ないことであり、通常の訴訟の場合と別異に解すべき理由はない。そして本件事実関係のもとでは後記のとおり、控訴人は、物上保証人として一部弁済によりその弁済分に相当する被担保債権と抵当権とを法律上取得しているのであるから、抵当権移転の附記登記をしていないとしても、同法八七条一項四号にいう差押えの登記前に登記された抵当権(住宅総合センターの有する甲抵当権のうち一部弁済分に相当するもの)の特定承継人であり(すなわち、同抵当権を住宅総合センターと準共有することになる。)、売却により消滅する抵当権を有する債権者に該当すると解するのが相当である。

したがって、被控訴人の右主張は採用の限りでない。

二  そこで、次に、控訴人主張の異議原因の有無につき検討する。

1  本訴請求原因1ないし6の事実(ただし、4の代位弁済額を除く。)は当事者間に争いがない。右事実によれば、坂口亮一の委託を受けて連帯保証人になっていた被控訴人は、住宅総合センターの乙債権を全額代位弁済したことにより、民法四五九条により坂口亮一に対し求償権を取得するとともに、同センターの有する原債権(乙債権)及び乙抵当権を代位により取得し、右求償権を有する限度で右債権及び抵当権を行使することができることになるし、控訴人は、同センターが別件競売事件における控訴人所有不動産の競売により甲債権の一部弁済に当たる三二六〇万二九〇三円の配当を受けたことから、同法三五一条、三七二条により坂口亮一に対し右額の求償権を取得するとともに、同法五〇〇条、五〇一条本文、五〇二条一項によりその全債権に対する右一部弁済分の割合に相当する同センターの有する原債権(甲債権)及び甲抵当権を代位により所得し、右求償権を有する限度で右債権及び抵当権を行使することができる筋合である。

2  ところで、控訴人は、本件競売事件における配当において、被控訴人が代位取得した乙債権に基づくその配当額から、民法五〇一条但書五号により、控訴人が一部弁済で取得した甲債権の一部三二六〇万二九〇三円の被控訴人に優先して配当を受けることができると主張する。

しかしながら、同号にいう「保証人」と「自己ノ財産ヲ以テ他人ノ債務ノ担保ニ供シタル者」(いわゆる物上保証人)とは同一債権についてのそれであって、代位者相互間の利益調整をすべき状態の生じない甲債権の物上保証人たる控訴人と乙債権の連帯保証人たる被控訴人との間には、同号にいう関係は成立しないから、控訴人の右主張は失当である。

もっとも、控訴人は、甲・乙両債権が形式上は別のものであるとしても、本訴請求原因7のとおり実質上は同一であり、別個の債権として被控訴人が主張することは信義則上許されないとも主張するが、本件全証拠によるもこれを認めるに足りない。

3  そこで更に検討するに、前記当事者間に争いない事実によれば、甲債権の一部弁済により法定代位した物上保証人たる控訴人が取得した(一部)先順位抵当権(甲抵当権)と、乙債権の全部弁済により法定代位した連帯保証人たる被控訴人が取得した共同抵当における後順位抵当権(乙抵当権)とが本件配当表を巡って競合している場合にいずれを保護すべきかは一個の問題である。

ところで、債務者所有の不動産と物上保証人所有の不動産とを共同抵当の目的として順位を異にする数個の抵当権が設定されている場合において、物上保証人所有の不動産について先に競売され、その売却代金の交付により先順位抵当権者が弁済を受けたときは、物上保証人は債務者に対して求償権を取得するとともに代位により債務者所有の不動産に対する右抵当権を取得するが、後順位抵当権者は物上保証人に移転した右抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解するのが、相当である。けだし、後順位抵当権者は、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産の担保価値ばかりでなく、物上保証人所有の不動産の担保価値をも把握しうるものとして抵当権の設定を受けているのであり、一方、物上保証人は、自己の所有不動産に設定した後順位抵当権者による負担を右後順位抵当権の設定の当初からこれを甘受しているものというべきであって、共同抵当の目的物のうち債務者所有の不動産が先に競売された場合、又は共同抵当の目的物の全部が一括売却された場合との均衡上、物上保証人所有の不動産について先に競売がされたという偶然の事情により、物上保証人がその求償権につき債務者所有の不動産から後順位抵当権者よりも優先して弁済を受けることができ、本来予定していた後順位抵当権による負担を免れうるというのは不合理であるから物上保証人所有の不動産が先に競売された場合においては、民法三九二条二項後段が後順位抵当権者の保護を図っている趣旨にかんがみ、物上保証人に移転した先順位抵当権は後順位抵当権者の被担保債権を担保するものとなり、後順位抵当権者はあたかも右先順位抵当権の上に同法三七二条、三〇四条一項本文の規定により物上代位するのと同様に、その順位に従い、物上保証人の取得した先順位抵当権から優先して弁済を受けることができるものと解すべきであるからである(最高裁昭和五三年七月四日判決・民集三二巻五号七八五頁参照)。

右の理は、先順位抵当権者が先に競売された物上保証人所有の不動産から一部配当を受けたときも同様と解される。

しかして、前記事実によれば、住宅センターの有する甲・乙両債権のために、控訴人と坂口亮一は各人の所有する各不動産に順位を異にする甲、乙二個の共同抵当権を順次設定し(甲抵当権が先順位)、その後、被控訴人は昭和六二年五月七日乙債権を代位弁済して乙債権と乙抵当権を取得し、同年六月一七日右抵当権移転の附記登記を受け、控訴人は別件競売において競売された控訴人所有不動産から同センターが同年一二月二二日甲債権の一部につき配当を受けたことによりその割合に相当する甲債権の一部と甲抵当権の一部を代位取得し、さらにその後本件競売において競売された坂口亮一所有不動産の売却代金の配当につき、控訴人と被控訴人間にその順位と範囲を巡って争いがあるわけであるが、右に述べたとおり、控訴人が一部代位で取得した甲債権の一部とそれを担保する甲抵当権は、被控訴人が全部代位で取得した乙債権と乙抵当権に後れると解するのが相当であるから、本件配当表のうち乙債権の抵当権分として被控訴人への配当額として記載された一億四八二一万六二一六円は、その全額につき被控訴人が控訴人に優先して配当を受けるべき筋合のものというべく、結局控訴人の主張は採用できない。

4  よって、控訴人の本訴請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。

第二  当審における反訴請求について

当庁平成元年(ネ)第七七六号控訴事件の被控訴人が同年一二月一日控訴人を相手として当庁に同控訴事件に対する反訴(同年(ネ)第八三二号事件)を提起したが、右反訴提起について控訴人の同意が得られなかったことは記録上明らかであるところ、右同意は控訴審における反訴提起の要件であるから、これを欠くときは不適法として却下すべきである。

被控訴人は、本件反訴は本訴と争点を共通にし、控訴人の審級の利益を害することがないから、適法であると主張するが、双方の主張によれば、本件に反訴と本訴の争点は前提において共通するものの、反訴については更に不法行為の要件につき新たな審理判断を必要とするから、控訴人の有する審級の利益を害することがないとはいえず、右主張は採用することができない。

第三  よって、本件控訴を棄却し、本件反訴は却下し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を、反訴訴訟費用の負担につき同法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤安弘 裁判官 川畑耕平 裁判官 簑田孝行)

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